「未払賃金立替払制度」をご存じでしょうか。
企業倒産により賃金が支払われないまま退職した労働者に対して、厚生労働省所管の独立行政法人である、「労働者健康安全機構」が未払賃金の一部を立替払する制度です。
労働基準監督署に認定申請をすると、過去6ヵ月間さかのぼり、未払賃金額の8割について立替払いをうけることができます。
2019年度には2.3万人の労働者が8.6億円の立替払を受けています。
【未払賃金立替払制度の概要と実績】
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/sh
insai_rousaihoshouseido/tatekae/index.html
さて、会社が倒産した場合に労働者の賃金の一部を補償する「未払賃金立替払制度」ですが、この制度を悪用するアウトロー会社は絶えません。
会社をやってみたけどうまくいかなくて給料が払えないから、突然会社を倒産させる。そして払わなかった賃金は「未払賃金立替払制度」で精算し、あとは知らないといった、アウトロー会社による「逃げ得」事例です。
さっぽろ青年ユニオンでは、これまでに「逃げ得」事例を2件扱いました。
いずれも札幌市に急増するコールセンター運営法人でした。
その内の1件である、悪質コールセンター運営法人のN社は、突然会社を移転するとアナウンスをし、実質的に雇用する21人の労働者を解雇して、2ヶ月分の賃金を払いませんでした。
会社跡地は空っぽになり、移転先に問い合わせても全く話が噛み合いません。
労働者のうち3人がさっぽろ青年ユニオンに加入し、賃金の支払を求めて団体交渉を申し入れました。
同時に労働基準監督署に労働基準法違反の「申告」と、「未払賃金立替払制度」の認定申請をしました。解雇直後に問い合わせをした労働者に対して社長は、「立替払制度で8割精算させるから、もう少し待ってくれ」とも話していたそうです。
その後、約10ヶ月の調査期間を経て、会社は事実上の倒産と認定され、労働者は立替払を受けることができました。
一方でN社は団体交渉を拒否し続けたため、ユニオンは北海道労働委員会に不当労働行為の救済を申し立てました。
N社は調査段階で全く反論できず、異例の速さで不当労働行為の救済命令が交付となり、新聞報道されました。
※不当労働行為
憲法で保障されている労働者の団結権を、使用者(会社)が侵害する行為。
使用者が正当な理由なく団体交渉を拒否することは、労働組合法第7条2項で「不当労働行為」として禁止されている。
救済命令の交付をきっかけに過料を恐れたN社は、書面交渉に応じることとなり、労使間の紛争自体は1年がかりで決着しました。
しかし今回の件はこれでは終わりません。
労働基準監督署に「申告」した労働基準法違反の調査は継続していました。
その結果。北海道労働局は2021年1月20日、最低賃金法違反の容疑でN社を検察に書類送検しました。
今後N社は50万円以下の罰金刑に問われることとなります。
最低賃金法違反が問われるポイントは「支払い能力があったのに、支払わなかった」ということです。
労働基準監督署の調査でN社には「支払い能力があった」と証明されたのではないかと推測されます。
そして、「未払賃金立替払制度」とは文字通り、給料を「立て替えて払う」制度です。
立て替えをした「労働者健康安全機構」が、本来の支払責任者である会社から立替金を回収することとなります。
同機構ホームページの公開資料によると、立替払額の2割にあたる1.8億円が回収されています。
労働基準監督署がN社の「支払い能力」を認めて書類送検したのであれば、立て替え分は回収されることになるでしょう。
結局、誠実に団体交渉に向き合って、早期に給料を払っていたら、罰金刑に問われることもなかったでしょう。
「逃げ得」なんてあり得なかったということです。
今後、コロナ禍で突然会社が倒産して、給料が支払われないケースも増えるのではないでしょうか。
そうした際には、泣き寝入りせずに、労働基準監督署に「未払賃金立替払制度」の相談をしてください。
その際にはあわせて労働基準法違反の「申告」もしましょう。
さっぽろ青年ユニオンもサポートしますので、お気軽にご相談ください。